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 遊牧社会・モンゴル国の食文化
島崎美代子 日本福祉大学福祉社会開発研究所
客員研究所貞
モンゴル国の首都・ウランバートル市は居住人口96万5千人に達し、全人口の37% を超えている(2005年)。そこでは、都会風の生活・食習慣が一般化しつつあると云え
るであろう。しかし、社会の基底には現在でも遊牧業があり、都市居住者もまた、「故
郷」との繋がりをもっている人々が多い。そこで、モンゴル国の食文化の典型として 遊牧民の伝統的生活・食文化を取り上げたい。
1はじめに‡ モンゴル国の地勢は、大きく分けると4つの地帯-森林、森林草原、乾燥草原、砂
漠-が、東西にのびている。中央部、西部に山脈・山塊がいくつか、東西に走り、ま た、砂地、湿地、潮などが散見される。川は山脈・山塊から流れ出て北方・西方の国 境を超え、 ̅また、砂漠・砂地の湖へ流れ込む(図)。標高は全体に高く、ウランバート
ル市は1300メートルを超え、山脈には3000~4000メートル級の山々が聾える。降雨 量は年間平均200~220ミリときわめて少ない。また、気温の年間較差は激しく、夏は 平均20度前後で快適であるが、冬は零下30度を下まわるところが多い。
このような厳しい自然条件のもとで、遊牧業が営まれているのである。そこで以下、 4論点にわたって検討を進めたい。

 9)◆ 1(氾‘ 110 執
・遠藤 、...・萱装 転∋~
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図.モンゴル国‘」の\地勢 日日日日 鉄道
△  山頂(メートル) 沫探探 砂地~砂漠
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文献リストNo.2、p.3の図に加筆したもの
和国
ビ 莞 ◎首都ウランバートル
(標高1351メートル) ○産業都市
    チョイパルサン
    バガソール
ダルハン エルデネット
40■
ソ / ヶぅ欄
1 トン

 il.遊牧社会としての特徴l モンゴル国遊牧業の特徴は、まず第1に、自然環境と共生して行なわれる5宙の遊
牧が基本である。すなわち、らくだ、馬、牛、羊、山羊の5種類を飼育するが、その 殆どがモンゴル国の原生種である。たとえば、馬はモンゴル鳥、牛はモンゴル牛、ま たは、バイドラック(毛の長い“やく”の種類)で、零下30度の野外で一冬を過ごす ことが出来る。羊・山羊には改良品種も多いが、いずれもモンゴル国内で品種改良し
たものが多く、寒さには強い。北方の山林地帯には、トナカイ中心の遊牧もあるが、一 般的には、上記5音の頭数比率を地帯の地勢に応じて変えている。南方・砂漠ではら くだ頭数の比率が増え、東方・平原で湿原、川の流域、窪地が多いところでは馬・牛、
半砂漠に移行する・岩山の麓などには山羊、そして典型的草原では羊、の比率が大き いという「棲み分け」=「同位社会」の形成・連結という自然環境との共生のもとに、
牧民世帯あたり5音のバランスがちがいを見せるのである。(写真1~4) モンゴル国遊牧民は通常、2世帯で「草原共同体」を組み、成人男女が各々二人 で、子どもたちの手伝いを加えて、5種類の家畜群を四季折々の自然環境のもとで遊牧
している。(写真5)
写真1.らくだ群(夏)

 写真2.馬群(夏)
写真3.バイドラッグ(夏~秋)

 写真4.羊・山羊群(冬)
写真5.「草原共同体」、夏の設営地

 12.四季と遊牧生活i モンゴル国の四季の移り変わりは鮮やかである。2月・凍てつく新春が3月半ばに
三寒四温となって、雪が溶ける・凍るが繰り返されて風が吹き荒れる。4月末~5 月半ばになると春・夏が同時に訪れ、草・潅木が緑の芽をふき、家畜たちは生気を増 し、3~4月に生まれた新しい生命が育っていく。そして、6~7月は夏、雪は消える
から、水辺をもとめ、川、泉、井戸の利用が必要になる。8月がすすむと草の色が費 色味をおび、9月にはいると山には初雪が降る。そして、冬の季節一北風と零下の気 温。これがモンゴルの四季の移り変わりである。遊牧民はこの四季に応じて、年間2 ~4回の設営地の移動を行なう。冬には丘の南斜面に、夏には川・泉・井戸の近くに、 ゲルをたたみ、5畜を追って移動するのである。その位置は慣習として、毎年決まっ ているが、気候の変動-たとえば、辛魅・降雪の多少、-などによって、例年とは 異なって、草、枯れ草と雪をもとめて北寄りへ移動する、など、ゆるやかに、草植状 態や水・雪の多少によって、移動の領域を変更する。これも慣行として認められてい るところだという。
その他生活に必要な社会インフラは、ソム・センターに、定住地と併せて設置され ている。たとえば、学校、病院、家畜病院、市場、行政機関、など。遊牧民たちは必 要があるときに、ソム・センターへ駆けつける。また、高齢の両親、学齢期のこども たちはソム・センターの住居~寮に居住していることが多い。このような遊牧業とソ ム・センターに定置された社会インフラ利用を組み合わせる生活の型を「半定住」と 呼んでいる。
13.四季の食生活l モンゴルでは、春夏秋冬に「旬」というべき食材がある。春から夏にかけては「白
い食物」、秋から冬にかけては「赤い食物」と呼ばれている。前者はさまざまな乳製品、 後者は肉類、とくに、保存用に乾燥した肉類、が主要な食材となる。
「白い食物」には、馬乳酒、ヨーグルト、アロール、■さまざまなチーズ類、などがあ る。「赤い食物」には、牛肉、乾燥した牛肉(骨付き)がある。これらの他に、小麦粉 から作るパン類が数種類あり(あげパン、ナンのような円形のパン、その他)、また、 夏には生鮮野菜、冬には酢漬けの野菜(ピクルス)、その他、馬鈴薯、にんじん、キャ
ベツなど保存のきくもの、などを食べる。しかし、主要食品は、家畜生産物で、乳製

 品・肉類が中心になっている。(写真6~9) このように、野菜、果物が不足のゆえか、死因となる病気を質問すると、1、脳梗
塞、心臓病、2、肺炎、3、消化器系の病気(とくに子どもの場合)、があげられるの が通例である。平均余命は、65,21年(2005年、「統計年報」)と非常に短い。上記の食 生活と厳しい気候とが作用しているのであろう。なお、とくにウランバートル市の貧 困地区には、乳幼児の「くる病」が多く、社会問題となっている。日照不足に摂取ビ タミンD欠乏が主原因とされている。小児医療、リハビリ、給食、食料配布(ビタミ ン入りビスケット他)などが、コミュニティに基礎をおいて実施ざれているが、まだ、 その活動は充分でない。
写真6.夏の食卓

 写真7.チーズ類の加工(保存用のものも含む)
写真8.乾肉を加工乾燥 写真9.冬の食卓

 j4.食生活と家族・コミュニテ宥 5種類の家畜を遊牧によって飼育するのであるから、生活時間を自分たちで決める■
ことは出来ない。いわば家畜の都合によって、動かなければならない、のである。と くに、父親は、家畜の飼育の暇をみてゲルにもどり、食事をとることになる。母親は、 ゲルの真ん中にすえてあるストーブでに、スープ(肉と野菜と)の鋼をかけて、何時 でも食べられる準備をしておく。また、馬乳酒、ヨーグルト、チーズ類もつくる。そ のほか、あげパン、丸パンをつくり、うどんを煮る準備も彼女の仕事である。子ども
たちにも、それぞれ仕事がある。夏は川・泉からの水汲み、燃料になる家畜の糞拾い、 そのほか、羊・山羊の群れの誘導、など。春先には、生まれた羊・山羊の仔の世話(暖 かいゲル内、また、専用ゲル内へつれていく、など)、また、幼い弟・妹の世話も。(写 真10~11)
このように、生活時間帯はバラバラであっても、家族・親戚、近隣共同体、同窓生・ 友人・「ふるさと」共同体の連携・協力には、驚かされる。見知らぬ「客」のおもてな
しの篤さは、この延長線上にあるのだろうか?

 写真10.子どもたちが分担する作業
写真11.水汲みの作業

 1おわりにr モンゴルの人々の心情は、かつての日本人の生活・意識を思い起こさせる、と多く
の日本人はいう。心情には確かに共有するものが多く、親近感を呼び起こされるのが 嬉しい。だが、遊牧社会と農耕社会との決定的な差異を見落としてはならないであろ・
う。
参考文献
*小貫雅男、1993、「モンゴル現代史」(「世界現代史、4」)、山川出版社 *小長谷有紀、1992、「モンゴル万華鏡-草原の生活文化」、角川選書224 *今岡良子、2005、「乳幼児の発育異常と貧困、国内移住について」、(「モンゴル国
おける貧困家庭児童の家族に関する研究2004年度、COEプロジェクト調査報告書」
第4章) * 島崎美代子・長沢孝司、1999、「モンゴルの家族とコミュニティ開発」、日本経済評
論社

おいしく食べて生き生き健康
山本 隆 大阪大学大学院人間科学研究科 行動生態学講座行動生理学研究分野
1. はじめに 私たちヒトを含めてすべての生き物は食べなくては生きていけない。すなわち、食べることの
本来の目的は体の成長、発育、代謝、呼吸、血液循環、運動など生きていくうえで必要な栄養素、 エネルギー源などを摂取することにある。このことを食の一次機能とよんでいる。食の二次機能 は、快楽を与えることである。食べることは本来楽しいものだということである。いくら体にと っていいものでもおいしくなくては食べられないといったことでもある。第三の機能は、食べ物 (食材)によっては体の機能を高めたり、悪い体調を改善する薬理的作用を有するということで ある。これを食べると脂肪を燃やしダイエット効果があるとか、血液がサラサラになり血圧を下 げる効果があるといったものである。そして、第四の機能は、人の和を作ることである。本来食 べるという行動は、気心の知れ合った者、生活を共にする者が席を同じくして語り合いながら楽 しく食べることなのである。
2.おいしさを感じるしくみ おいしさは、いろいろな要因にもとづくが、中でも重要なのは体が求めているものを摂取した
ときの快感である。例えば、のどが乾いたときは一杯の水がとてもおいしい。肉体運動をしたあ とは、エネルギー源であるブドウ糖を含むあめやチョコレートなどの甘いものが欲しくなる。ま たこのとき、クエン酸などの酸味物質がとてもおいしくなる。また、食塩が欠乏すると、普通な ら避ける程の濃い食塩水がとてもおいしくなる。動物を用いた実験であるが、必須アミノ酸の1 つであるリジンが欠乏すると、リジンを盛んに摂取するようになる。しかし、リジン欠乏状態が 解消されるとそもそも味のよくないリジンには見向きもしなくなってしまう。
食物摂取時の感覚には味覚、嗅覚、温度覚、痛覚、触覚、歯からの感覚などがある。これらの 感覚は、食物の物理的、化学的性状の分析をするためのものである。おいしさ・まずさというの は、独立した感覚ではなく、前述の種々の感覚情報が脳内で統合されて生じる快感・不快感であ る。すなわち、食物や食品を味わうとき、それが複雑な味であるほど脳での分析は困難になるが、 おいしい・まずいの判断はほとんど瞬時にできる。特に扁桃体は、種々の感覚情報の入力を受け、 分析することにより、摂取している食物が自分にとって都合のいいものか避けるべきものかの価 値判断を行う役割もするとされている。扁桃体で「これはいい」と判断されると、その結果は視 床下部に送られて、β−エンドルフィンなどの麻薬様物質を放出させたり、中脳の腹側被蓋野(報 酬系)に送られて、ドーパミンという物質を放出させてもっと食べたいという摂取欲を亢進させ
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るのである。実際に食べるか食べないかは、視床下部外側野の摂食中枢を活性化するか、腹内側 核の満腹中枢を興奮させるかで決まる。
3.好き・嫌いはどのようにしてできるのか 食べ物の好き嫌いは、繰り返しの摂取時に感じた快・不快をもとにした学習の結果生じるもの
である。それらは嫌悪学習と嗜好学習に大別され、そこにさまざまな経験などが重なり、好き・ 嫌いが形成されていく。
1)嫌悪学習 ある食物を食べたあとで不快な経験をすると、その食物の味やにおいを記憶に留め、嫌いにな
る学習である。特に食後に吐き気を催し体調が悪くなると、一回の経験で長く強く持続する嫌悪 を獲得する。体を危険物から避けようとする防御反応とも解釈できる。食べたくないものや、食 べたくないときに、無理強いされたりすると(学校給食のときなど)、いやな思い出となってその 食物を嫌いになる場合もある。味、におい、噛み心地などがとてもいやなものであった場合も、 不快感と結びつき、嫌いになる。一方、体の発育成長に伴って要求レベルが変化し、好きであっ たものが徐々に受け付けないものになる場合もあろう。
2)嗜好学習 飲食物摂取後に快感を伴うとその時食べていたものが好きになり、おいしいと思うようになる
学習である。例えば、病気で入院しているときに食べたものが好きになったという人がいるが、 これは悪化していた体調の回復過程で摂取した食物が好きになるということで、その食物の味や においと体調の好転を連合学習したことによるのである。また、家族でギョーザを作ったり、一 家団欒、お祝い事などの楽しい思い出や、母親の手作りの味といった愛情豊かな思い出と結びつ いた食物が好きになるのもこの学習である。一方、体の発育成長老化に伴って、あるいは慣れや 嗜癖により嫌っていたものが徐々に好きになる場合も考えられる。
4.好き・嫌いのできる時期 我々の行った大学生を対象とした調査では、幼稚園、小学校低学年で約 80%人に嫌いな食べ物
ができていて、それが大人になるまで続いていることがわかった。好きになった時期については、 約 55%の人が幼稚園、小学校低学年と答えている。年とともに食経験が拡大し、好きな食べ物が 増えるためか、前述の嫌いになった時期に比べて好きになった時期はより高年齢にまで広がって いるともいえる。
5.食べず嫌い 関西の人には納豆の嫌いな人が多い。理由を尋ねると、においがいやだから、ネバネバして気
味が悪いから、親が食べないから、といったことで、実際には食べたことがないのに嫌いなもの
2

と決めつける、いわゆる食べず嫌いの人が多い。一般的に、忙しくて時間のない母親は、子供が 嫌がると、うちの子はこれは嫌いだと決めつけ、さっさと食べてくれる好きなものだけを与えが ちである。また、親の嫌いなものは食卓に上がらない。食べ物の好き嫌いは幼児期に親が決めて しまう可能性が大きい。
6.狭義の味覚、広義の味覚 味覚発達の生理学を考えるためには狭義の味覚と広義の味覚に分けて考察する必要がある。 狭義の味覚とは、味を感じる基本的な能力、その人の有する味覚の感度である。口の中に食べ
物が入ると、口の中に溶出した化学物質により味蕾が刺激され、その結果生じる神経情報が味覚 神経を通って脳に送り込まれ、処理されて味覚反応が生じたり、味を感じたりするのである。こ の基本的なハードウェアが出来上がり、基本的な機能を示すことが狭義の味覚である。この機能 の発達はきわめて早い。生まれてすぐの赤ちゃんの口の中に、砂糖水を少し入れると、にこやか な顔をしてペチャペチャと口を動かして飲み込もうとするが、すっぱいクエン酸を入れると、顔 をしかめて明らかにいやな表情を示す。生後3ヶ月目には、どの味も立派に味わうことができ、 味覚の機能はほぼ一生の間それ程衰えることなく続く。
広義の味覚とは、砂糖水、塩水、酢といった狭義の味覚の感度ではなく、複雑な味の食品や食 物に対する味の評価や嗜好性の発現のことである。このときは味のみならずテクスチャーやにお いの評価も同時に行っている。幼児期の食経験は味覚を発達させるといわれるが、口の中の味細 胞が受け取る能力がよくなるのではなく、脳での識別能力、判断力がよくなるということである。 これは脳の発達が基本的に完成する 3〜6 才の間にいかなる食経験をしたかに大きく依存する。そ して、もっと年をとり、経験を積み文字通り、「酸いも甘いも噛み分けた」あとでは、食通といわ れるような域に到達するのである。
7.味覚の発達と学習 嫌悪学習や嗜好学習を獲得したあと、学習した食物の味に対して脳細胞は長期的に大きな活動
を示すことが知られている。これを脳細胞の可塑的応答性変化という。このことは、積極的にお いしさのレパートリーを広げるためには、数多くの食べ物を積極的に食し、脳細胞を訓練する必 要のあることを示している。
脳は「新しい脳」と「古い脳」に分けられる。新しい脳とは、ヒトでよく発達している大脳と 大脳皮質のことで、高次の認知機能に関わる場所をいう。古い脳とは大脳辺縁系のことで、喜怒 哀楽の感情とその記憶、それに伴う行動発現に関係する。古い脳は、下等な動物から霊長類に至 るまで共通にみられる快の情動と不快な情動の発現およびその記憶にかかわるところなのである。 ヒトの脳は3才頃までは古い脳の働きが主導的である。つまり、幼児期までの味覚は快・不快の 情動を主としたものである。
新しい脳が充分発達し機能するのは3才以降である。3才頃までの幼児期には、何を食べ、そ れがどういう匂いや味がしたのかということは思い出として永続的には残らないが、繰り返し食
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べた食物の味や匂いとそのときの情動は一体となって無意識のうちに古い脳に保持されている。 3才以降にそれは大脳皮質に移され、長期に保存されるようになる。例えば、みそ汁やだし味を 使った日本食本来の食べ物を経験し、快情動として古い脳にインプットさせておくと、ご飯の匂 い、かつお節の香り、みそ汁の匂い、台所から聞こえてくるネギを刻む音などと、食事の場面、 家族団欒の楽しさなどを結びつけた記憶として残り、いずれ大脳皮質に移されて大人になっても 懐かしく思い出されるのである。
8.食育を考える
近年、若者を中心に食の乱れが指摘されている。私が調査した約 100 人の男女学生のうち、自
分の食は乱れているとは思わないという者はたったの1人であった。乱れの具体的な内容は多い ものから順に 1)朝食を抜く 2)食事時間(回数)が不規則 3)ファーストフード、コンビ ニ食、インスタント、レトルトですます 4)食べ物の偏り、ワンパターン、マンネリ化、同じ メニュー 5)ビタミン、ミネラルを含め栄養のバランスを考えない、などである。
以上のように食が乱れていることは多くの人が自覚しているのだが、その大きな理由は家族の もとに離れて生活をすることに基づく経済的な理由と学生生活特有の多忙性に根ざすものである。 しかし、気持ちとしては何とかしなくてはならないと考える人が多く、栄養の科学的知識を増や し、規則正しい生活をし、手作りの料理にも挑戦したいと述べている。
すでに述べたように、幼児期の食経験、もう少し延長して考えるなら小学校低学年までの学童 期(10 才位まで)に至るまでの食経験は、大人になっても長く続く食べ物の好き嫌いを形成する 大きな要因である。すなわち、母乳から離乳食に切り替わったとき、家庭の味から家庭以外の味 を経験する給食のときには初めての味を数多く経験するのであるが、このとき不快感ではなく快 感と結びつく学習をしておく、あるいは繰り返しの食経験で慣れておくことが重要なポイントと なる。この時期の摂食は、自らの意志で選択するのではなく、与えられたものを受動的に食べさ せられるものであるから、子どもを教育する前にまず母親を教育しておく必要がある。
自らの意志で食の選択ができるようになってからは、食に対する前向きの姿勢、好奇心が大切 である。調理にも関心を持つようになる学童期、とくに小学校高学年(10 才以上)では、仲間と ともに実際に調理に参加し、食材のこと、調理技術などを楽しく学びながらお料理を作ることに より、手作りの喜び、出来上がったものを皆で一緒に味わう楽しさなど一石で二鳥も三鳥もの収 穫がある。この際とりわけ大切なことは、食べることの有り難さ、食べ物はお金で買える他の商 品とは違い貴重なもの、有り難いもの、粗末にしてはならないものだという道徳観念を植えつけ ることである。
9.おわりに 最初にも述べたようにおいしく味わえることは幸せなことである。単に精神的な満足、安らぎ、
至福感をもたらすだけではなく、脳内にβ-エンドルフィン、カンナビノイドドーパミン、各種 の摂食促進物質などが放出され、脳は生き生きと活性化し、自律神経系、内分泌系の活動はスト
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レスを抑え、免疫能を高めまる。100 才以上の長寿者に長生きの秘訣を尋ねるとその第1位は「好 き嫌いなく何でも食べる」で、その第4位には「腹八分目にする」がくる。おいしく食べること は重要であるが、体のためには腹八分目でストップする強い意志が必要であることを意味してい る。
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